Preface of Hokusai Manga volume 11

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畫論に凝て筆のうこかさるは、医案正しく匙の
まハらさるにひとし 古甚の説を活動し疾を
癒すそ 良医なるへき され婆 画人も亦然り
古法の縛縄をぬけいて 花を畫は うるハしく 雪を
画は寒く見ゆるを 上手とこそは いふへけれ 其人は誰
独此翁にとゝめたり 酒を嗜ず 茶を好す 五十年來
画三昧 風骨雅致の逃道を嫌ひて 山か雲かのわかちも
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知れぬ絵に似たる繪を書(かか)す 眞をはなれて 眞を写し 実に一家
の画道を開けり 往(いぬ)る文化 それの年より意にまかせ 筆に
随ひ 何くれとなく画たるを 既に十巻刊行なしゝか それにさへ
飽たらす 需者しけきにより 翁ふたゝひ筆をくたし 漏たるを
拾ひて 速に此巻成ぬ 尚編を次て廿編をもて全部となす
こと近きにあり 嗚呼 老練の奇巧に勝れて 尤興ある絵本になん
_                     柳亭種彦